ドローンや空飛ぶクルマが本格的に利用されるのは、まだ遠い先だと考えている人も多いだろう。テラドローン社長の徳重徹さんは「ドローンや空飛ぶクルマの数が爆発的に増えるのは必至。すでに海外ではドローン配送が日常的になっている。ドローンや空飛ぶクルマが運行する低空域経済圏にはビッグビジネスが眠っている」という――。

※本稿は、山口雅之『常識を逸脱せよ。日本発「グローバルメガベンチャー」へ テラドローン・徳重徹の流儀』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

食品配達ドローン
写真=iStock.com/sarawuth702
※写真はイメージです

インドネシアでドローンによる農薬散布を手掛ける

テラドローンという社名から、同社をドローンの製造・販売会社と思い込んでいる人も多いかもしれない。

だが、設立時から徳重はメーカーは目指していない。ドローンによる社会課題の解決というソリューションビジネス、それからドローンや空飛ぶクルマの運航管理を行うUTM。現在のところ主要事業はこの2つだ。

それぞれ現状はどうなっているのだろう。

【徳重徹

ドローンソリューションのほうは、測量、点検、農業が柱になっています。測量は大手ゼネコンや建設会社が主なクライアントで、すでに2000件以上の実績があります。また、当社の業務はサービスの提供が中心ですが、一部ハードウェアとソフトウェアの外販も行っています。ちなみにUAVレーザスキャナ「TerraLidar」は国内導入実績ナンバーワンです。

点検は電力や石油化学業界と組んで石油・ガスタンクや煙突、ボイラーなどのインフラ設備に対し実施しています。これもオペレーションにとどまらず、点検のためのハードやソフト開発も手がけています。さらにINPEXと事業構想「INPEX-Terra Drone Intelligent Drone構想」を立ち上げ、DXも推進しています。

農業は規模の大きな海外の農場が対象です。代表的なのはインドネシアのパームプランテーションでのドローンによる農薬散布。ひとつのプランテーションの広さが3000~5000ヘクタールあります。これは東京ドームの1000倍以上です。この広大な地にいままでは人の手に頼って農薬を撒いていたのですが、コロナ禍での人材不足や過酷な労働環境など、さまざまな問題と無縁ではありませんでした。私たちのドローンビジネスはそれらを解決するための有効な手段となっています。

これだけの敷地に農薬を効率的に散布するには高性能のハードに加え、高度な技術が不可欠です。現在は当社がオペレーションを行っていますが、いずれは自分たちでドローンを操縦できるよう、現地の人たちのトレーニングにも力を入れています。

なお、パームプランテーションに関しては自然破壊にもつながりかねないので、当社はRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil/持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟しているところとしか契約していませんし、今後もその姿勢は続けていきます。

世界的なドローン市場調査機関であるDrone Industry Insightsが毎年、世界の約900社に及ぶドローンサービス企業の情報をもとにして、ランキングを発表しています。その2024年版(「ドローンサービス企業 世界ランキング2024」)で当社は産業用ドローンサービス企業として世界1位を獲得しました。これは2020年以来2度目です。

このように、テラドローンのドローンソリューションサービス事業は、すでに広く世界で認知されていると同時に、高い評価を得ているのです。

新たなドローンの運航管理が必要になる

もうひとつの主力事業UTMのほうも、すでに本書でもとりあげたようにベルギーのUniflyを傘下に入れたことにより、テラドローンの存在感は大きくなっているようだ。

【徳重徹

ドローン事業の本丸はUTMだと私は考えています。別のところでも話しましたが、今後ドローンや空飛ぶクルマの数が爆発的に増えるのは必至。そうなると空の安全を守るための体制を整えなければならなくなります。

既存の仕組みをそのまま運用するだけでは、この変化には対応できません。ATM(航空交通管理システム)と統合や連携する新たなドローンの運航管理システムがどうしても必要になる。

Uniflyはカナダ、スペイン、ドイツ、ベルギーなど8カ国にANSP(航空管制サービスプロバイダー)を中心にUTMシステムの提供実績を持ち、この分野におけるリーディングカンパニーのひとつです。その技術力と信頼性は世界中で高く評価されています。

ただ、Uniflyはヨーロッパ、中東、カナダには展開していますが、アメリカはカバーしていませんでした。ドローンで世界ナンバーワンを目指すうえで、最大市場と目されるアメリカを疎かにするわけにはいきません。

ヨーロッパでは、航空の安全をEASA(European Union Aviation Safety Agency/ヨーロッパ航空安全局)が担っています。そして、アメリカでこの役割を担っているのがFAA(Federal Aviation Administration/アメリカ連邦航空局)です。このFAAが認定するUAS(無人航空機システム)サービスの主要プロバイダーであり、アメリカにおけるUTM市場で圧倒的なシェアを誇るのが、2015年に設立されたAloft Technologiesです。

その地域のナンバーワン企業を買収するというのが当社の方針ですから、私はこのAloft Technologiesをターゲットに定めて、2023年3月に株式シェア35%の取得に成功しました。なお、Uniflyへの出資・連携で得られた経験が存分に生かされたのはいうまでもありません。

ヨーロッパにおけるUTMの制度面では、European Commission(欧州委員会)によりU-Space規制が施行されています。またEU(欧州連合)とEurocontrol(欧州航空航法安全機構)によって設立されたSESAR(Single European Sky ATM Research Joint Undertaking)が次世代ATMと併せてUTMの進化や発展に向けた研究開発に取り組んでいます。一方、アメリカでは長らくFAAとNASA(アメリカ航空宇宙局)が連携して研究開発を行ってきました。

私たちはUniflyとAloft Technologiesを通じて、グローバルとアメリカ、双方の市場にアプローチできるようになっています。

さらに、日本国内においても、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主導する「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」(ReAMoプロジェクト)にも当社は参画しております。世界のUTMで得た知見を、日本市場の発展にも還元していきたいと考えています。

EVTOLによる未来の都市交通
写真=iStock.com/XH4D
※写真はイメージです

米テキサスではファストフードのドローン配送が人気

徳重によれば、ドローンを活用できる領域はこれからますます拡大していくという。機を見るに敏な彼がいま注目しているのが、ドローン物流だ。

【徳重徹

宅配便の配達やフードデリバリーがドローンでできるようになる。日本国内だけを見ていると、そんなのはまだ遠い先の話に思えるかもしれません。そんなことはないのです。

すでに世界はその方向に動いています。それもものすごいスピードで。

アメリカのテキサスでは、すでにファストフードのドローン配送が日常的に行われています。アメリカは土地が広いので、郊外の家でピザやハンバーガーのデリバリーを頼むと、届くまで40分も50分もかかる。どこがファストフードなんだといいたくなります。そうしたら配達をドローンで行う業者が現れたのです。

荷物の重さ、飛行距離、法律。ドローンの商業運用の妨げになるのは、だいたいこの3つです。ファストフードなら軽いし、何百kmも遠くの店には注文しないから距離も問題ありません。法律に関してはおそらく実証を兼ねて安全に配慮するということで認可が下りたのでしょう。

そうしたら、たちまち大人気です。渋滞も関係なく最短距離を飛んでくるので早く届くし、ドローンは車やバイクのようにCO2も出さないから地球にも優しい。

これを見て、いまでは同様のサービスをする業者が雪崩を打ったように参入してきています。

中国の深圳でも同じような光景を目にしました。郊外ではありません。高層ビルが立ち並ぶ都心の真ん中にある商業施設です。上階のオフィスからスマートフォンで1、2階に入っているレストランに注文します。すると、数分後にはドローンが屋上やベランダにある専用ボックスまで料理を届けてくれるのです。

日本だと墜落したら危ないとか、法律をどうするとかで、現状を変えるまで時間がかなりかかりますが、どこの国もそうではありません。むしろテキサスや深圳のスピード感のほうが世界標準なのです。

日本では小口配送のラストワンマイルが社会問題になっています。ドローンを配送に利用するのが可能になれば、一気に解決するじゃないですか。

ドローン物流に関しては、私たちは技術的な課題はほぼクリアしています。あとは不必要な規制と旧態依然とした社会常識に風穴を開ければ、この分野でもビッグビジネスを成し遂げられると思っています。

低空域経済圏のプラットフォーマーを目指す

徳重の野望がだんだんと鮮明になってきた。測量、点検、農業、物流といった分野でのドローンソリューションとUTM。それらによって世界の低空域経済圏を掌握しようというのだ。

山口雅之『常識を逸脱せよ。日本発「グローバルメガベンチャー」へ テラドローン・徳重徹の流儀』(プレジデント社)
山口雅之『常識を逸脱せよ。日本発「グローバルメガベンチャー」へ テラドローン・徳重徹の流儀』(プレジデント社)

【徳重徹

私が尊敬し参考にしている経営者のひとりにイーロン・マスクがいます。彼はいまスペースXで宇宙ベンチャーを目指しています。宇宙開発の意義は計り知れないし、なにより夢がある。

でも、宇宙は私のビジネスのテーマにはなりません。長期的に見れば彼の事業は人類にさまざまな恩恵を与えてくれるのでしょう。けれども、宇宙旅行ができるようになったところで、当面その利益を享受できるのは一部のお金持ちだけです。

私が狙っているのは宇宙ではなく、もっと低いところ。具体的にいうと、ドローンや空飛ぶクルマが飛行する低空域です。地上には車がひしめき合っていますが、この空間はまだ隙間だらけ。ここを測量やら農業やら物流やらに利用すれば、多くの人に価値を提供することができます。

今後この低空域には空飛ぶクルマも入ってくるし、もちろん私たちはそこにも参加します。そして、そこがにぎやかになり混み合えば混み合うほど、安全を確保するためのUTMの重要性が増すのです。

だから、私たちは低空域をもっとビジーにしなければならないし、もっとUTMの完成度を高めていきます。

宇宙開発はイーロン・マスクに任せましょう。私が目指すのはあくまで低空域経済圏のグローバルプラットフォーマーです。