妻との不思議な関係
えぐざま氏の家族観は非常にユニークだ。彼の場合、自分が思いきり学ぶことのできなかった遠因としてすぐに思い浮かぶのは両親だろう。恨みに似た感情を抱いたとて、なんら不思議はない。ところがえぐざま氏はこう言う。
「確かに、受験については『もう少し配慮してほしかった』という感情はあります。私の両親は経済状況によって住む場所を変えましたが、その際に子どもがどんな学校に通うかなどの教育プランがまるでなかったように感じます。
受験エリートを極端に嫌う両親の考え方が優先されたのかもしれません。がただ、他の面においては価値観も合致しますし、現在においても実家にしばしば帰りますし、仲が良い家族だと思います。いまだに実家は居心地がいいですね」
えぐざま氏は30歳手前で結婚している。その中で彼らしいこんなエピソードがある。
「これまで私が蓄積してきた受験の知識などを伝授した結果、7浪のすえ、結婚当時高卒だった妻を明治大学へ導きました。妻はきちんと大学へも通い、よい成績で卒業しています」
えぐざま氏は2024年、慶應義塾大学の入試に合格し入学した。そのきっかけは妻のこんな一言だった。
「私はこれまで、ずっと早稲田大学を受験してきたんです。自分の性格に合う大学だと思ったからです。しかし妻から『あなたは東大や京大、早稲田には詳しいけど慶應の知識はほとんどない。有数の学歴マニアとしての知識体系を完成させるために入学すべき』と言われ、納得しました。そして、入学が叶ったんです」
12浪目でようやく早稲田に合格するが
時間軸が前後するが、「早慶でいえば、本来の自分は早稲田寄り」を公言するえぐざま氏は、12浪目にして学士編入試験にパスしている。憧れの早稲田生へ転身できるかと思えば、会社がそれを阻んだ。
「早稲田大学へ通いたいので2年ほど休職をお願いしたのですが、却下されました。自らのコンプレックスを解消するチャンスだと喜んだのですが、早稲田大学入学は立ち消えになってしまいました。ずっと早稲田が好きでしたが、慶應に通ってみると設備も人もとても心地よいと感じるようになりました」
現在は有給休暇などをうまく活用し、大学生と両立させているという。だが有給休暇をすべて使っても、卒業に必要な出席日数には足りないだろう。その意味でいずれ二刀流には終わりがくるが、えぐざま氏はこう断言する。
「慶應義塾大学を卒業しようと思っています。拘束のきつい必修科目の都合で会社とはいずれ折り合わなくなると思うので、その際は職を辞めるつもりです。思えば私も父と同様に、働くことは向いていないと思います。悔いはありません」
大学受験は、ライフワーク。しかも職と天秤にかけてなお重たいライフワークだとえぐざま氏は言う。だが人生の大半を捧げたその執念はどこからくるのか。