万博も「テーマパーク価格」が適応される場のはずが…
万博のような巨大イベントでは、通常営業のレストランとはまったく異なる環境で食事を提供しなければならない。提供回数が非常に多く、しかしキッチン設備は限られ、スタッフの教育や物流など課題は多い。安全性を優先するあまり、見た目や演出に手が回らなくなるのは理解できる。
しかし、消費者がそうした舞台裏を考慮することは難しい。5000円という価格は、一流ホテルのアフタヌーンティーに比べれば高くないが、絶対的な価格としては安くない。それだけに、提供方法や見せ方にもっと慎重になるべきだった。
観光地や遊園地、テーマパークなどでは、いわゆる「観光地価格」などと呼ばれる割高な料金設定が存在する。こうした場では、通常より高い価格であっても「特別な場所で特別な体験をしている」という非日常感が勝り、価格への評価が甘くなって不満が生まれにくい。
万博もまた、国際色豊かで非日常的な舞台であり、本来であれば同様の心理が働く環境である。ところが今回は、そうした「特別な体験」としての価値さえも十分に提供できなかった。それが消費者の失望を招き、炎上へとつながったと考えられる。
飲食は単なる“食べる行為”にとどまらず、「空間」「サービス」「演出」「文化的背景」などが絡み合ってこそ、高い満足度が生まれる。SNS時代のいま、消費者の目はますます厳しくなっている。飲食業界は、あらためて「何に価値があるのか」を問い直し、食体験全体を磨き上げる必要がある。大阪・関西万博の英国パビリオンの一件は、そのことを象徴的に示しているといえよう。