「社長が守りたいのは、自分の傀儡になる人間だ」
フジテレビの港浩一社長は1月10日、全社員に宛てたメールで「社員を守る温かい会社でありたい」と力説したというが、この言葉もどこまで本気なのか。もし本気だとすれば、今回の案件は社長が有言実行できないほどの難題であったのか。
大事な社員を傷つけられて、それを知っていながら、1年半も何をしていたのか。週刊誌にすっぱ抜かれたら1週間で釈明できるのに、投資ファンドに責められたらすぐに記者会見を開けるのに、なぜ社員のことを考えるのにそんなに時間がかかるのか。事件をただ放置して、時間が解決することを待つのが「社員を守る」ことだと思っているのであれば、勘違いも甚だしいと言わざるを得ない。
私は今回、知人のフジテレビの社員と元社員数人に取材をした。すると、次のような証言が出てきた。
「社長の言葉はパフォーマンスに過ぎない」
「フジテレビの社員であれば、誰もが今回の火種になっている編成幹部のA氏が港社長の『お気に入り』であることを知っている」
「A氏を出世させたのは港だ」
「社長が守りたいのは、こういった自分の傀儡の人間だ」
フジテレビといえば、長きにわたって「日枝政権」が続いた。長年、フジテレビの代表取締役を務めた日枝久氏は、取締役相談役としていまだに影響力を持っている。そのため、上層部は視聴者よりも日枝氏の顔色をうかがってきた。現在の港氏も同じように自分の使いやすい人間を重用してきた可能性があると、フジテレビの社員や元社員は語った。
テレビの存在意義が問われている
本論の最後に、今回の教訓から読み取ったテレビ業界への提言をおこないたい。チャンネル登録者数50万人超のYouTuberとして活躍する元女子アナの青木歌音氏は、自身のXで今回のフジテレビの一件を取り上げ、過去に受けたテレビ業界での性被害を告発している。
テレビからの仕事が来なくなることへの恐怖があったことを打ち明けたうえで、「今はテレビなんて怖くない」「テレビが無くても全然生きていける」と公言している。テレビ局が今回の中居氏性加害疑惑のような対応を続けていると、このように感じる人物が増えることは間違いない。
また、今回海外投資ファンドが第三者委員会を設置して事実の解明などをすることを求めたように、ジャニーズ性加害問題をはじめとするトラブルへの対応の悪さを指摘する「国際社会の目」もますます厳しくなってくるだろう。
株式化、ホールディングス化して会社が大きくなるということは、ガバナンス的な感覚や資質が問われるということだ。それらを疎かにして、看過し続けると、その先に待ち受けていることは何なのだろうか。
フジテレビの企業統治能力に疑問を持ったスポンサーがCM枠から続々と降り、その穴埋めの「ACジャパン」のCMばかりになる。そんな未来も絵空事ではない。海外ファンドによる買収もあり得る話だ。総務省の怒りを買って「免許取り消し」の憂き目にあうかもしれない。そして「負のスパイラル」が、他局やテレビ業界全体に波及してゆく……。
もはや「対岸の火事」ではない。テレビ局やテレビ業界に携わる一人ひとりが、そういう危機感を持たなければならない。