エレベーターの待ち時間があれば観られる
ショートドラマの配信事業は、アメリカでも高い収益を上げている。アメリカ版では現地の脚本家や俳優を起用し、中国版ストーリーをアレンジ。これが成功につながった。中国国営の中国通信社によると、2024年8月時点の中国の主なショートドラマ配信アプリの合計として、アメリカ市場で1億5100万ドル(現在のレートで約236億円)を売り上げている。
人気の秘密は3点ある。第1に、従来のテレビドラマと比べ、視聴に要するエネルギーが圧倒的に少ない。1時間ほどを割いて1話を視聴する従来のドラマと異なり、1~2分あれば完結できるため、現代の生活スタイルによくマッチしている。米テッククランチと提携する中国テックメディア「テックノード」は、短編ドラマは特に、通勤や移動時間のすきま時間での視聴に適していると指摘する。数分単位で区切られた短いエピソードを、空き時間に応じて好きな話数だけ視聴できるためだ。
アプリ「ReelShort」を展開するクレイジーメープルスタジオのジョーイ・ジア最高経営責任者も、チャンネル・ニュース・アジアの取材に、「昼食時やエレベーター待ちの間などで視聴されています」と説明する。新型コロナウイルスのパンデミックで映画館が閉鎖される中、手軽に視聴できる娯楽コンテンツとして人気が広がったという。
映画とSNSの間という立ち位置
人気の理由の2点目は、クオリティの高さだ。映画並みの品質にはほど遠いが、「そこそこ観られる」程度の仕上がり。この絶妙なラインが人々を虜にしている。
TikTokを開けば、素人が踊るダンス動画や、赤の他人がカメラに向かって日常を語る動画であふれている。そのような「素人感」はある意味でTikTokの味でもあったのだが、今や飽きられはじめた。その空白にマッチしたのが、低予算だがきちんとした筋書きのあるショートドラマというわけだ。
チャンネル・ニュース・アジアによると、エンタメ業界の関係者からは、従来型のSNSコンテンツときちんと差別化できているとして評価する声が上がっているという。
ハリウッドの制作会社エンビークリエイティブのマイク・バネル・クリエイティブディレクターは、同メディアに、「人々は今、過剰に消費している動画にやや飽きています。スクロールするたびに同じようなコンテンツが表示されるのですから」と指摘する。さらに、「業界は、より質の高いコンテンツを求める方向に向かっています」と述べ、ショート動画の将来性を強調している。