なぜ受験生がビタミンD不足になりやすいのか
とりわけ心配なのが、子供たちです。一見、彼らは十分に日光を浴びているように思えるかもしれません。ところが、現実は少し違います。受験期の中高生の生活を想像してみてください。朝から学校へ行き、放課後は塾に直行し、夜遅くまで部屋にこもって勉強をします。こうした生活では、太陽の出ている時間に外に出る機会がほとんどありません。
さらに、冬は日照時間が短く、紫外線も弱くなります。通学時に日差しを浴びる程度では、ビタミンDの生成には十分でないことが多いのです。服装の面でも、制服やコートで肌の露出が少なく、特に女の子は日焼けを避けて日焼け止めを使う傾向が強いため、紫外線をブロックしてしまいます。
食習慣も影響しています。かつての和食は、焼き魚やみそ汁、野菜やきのこを中心とした、微量栄養素に富んだ食事でした。しかし、現在ではパンやパスタ、肉料理などの「洋食化」が進み、家庭でも魚が食卓に上る頻度が減ってきています。実際、農林水産省のデータでは、日本人における食用魚介類の消費量はこの20年で半減していることが報告されています。結果として、ビタミンDの摂取量はかつてよりも少なくなっているのです。
厚生労働省の「令和5年国民健康・栄養調査」によると、10代の若者のビタミンD摂取量は平均で1日あたり5〜6マイクログラム程度でした。これは、日本の推奨量の8〜9マイクログラムを大きく下回っています。特に冬の時期には、紫外線も少ないため血中のビタミンD濃度が低下しやすくなります。つまり、受験勉強に最も集中すべきこの時期に、実は多くの受験生が「気づかないビタミンD不足」に陥っている可能性があるのです。
脳、気分、免疫に与える影響
ビタミンDの役割は骨を丈夫にするだけではありません。近年、脳の中にビタミンDの受容体があることが分かり、学習や記憶、感情のコントロールにも関わっていると考えられ始めています。ある研究では、ビタミンDの補給により血中濃度が高い10代の若者は、記憶力や集中力を問うテストで良い成績を残し、気分も安定していたと報告されています。
また、冬に気分が落ち込みやすくなる「冬季うつ(季節性情動障害)」とも関係があるのではないかと考えられています。日光に当たらないとビタミンDが不足し、それが気分の落ち込みにつながる可能性があるというのです。
さらに、ビタミンDは免疫機能にも深く関わっています。2017年にイギリスの医学誌に発表された大規模な研究では、ビタミンDのサプリメントを定期的に摂取することで、風邪やインフルエンザなどの急性呼吸器感染症のリスクが下がることが示されました。
特にビタミンDが著しく不足している人においては、その効果が顕著でした。血中濃度が10ng/mL(ナノグラムパーミリリットル)以下の人がビタミンDを補うことで、呼吸器感染症のリスクが半分近くにまで下がったとも報告されています。つまり、ビタミンDの欠乏状態を改善することは、冬に流行する感染症を予防する上でも意味のある対策になるのです。