誤解を招くオーガニック給食
品川区は、今年10月から公立小中学校の給食で使う野菜すべてを化学肥料や農薬を使わない「有機(オーガニック)栽培」で作られたものにすると発表し、話題になりました。
こうして「オーガニック給食」を導入する理由の一つに、「子どもたちに安全安心な給食を食べさせたい」というものがあります。もちろん、有機栽培を推進すること自体は問題ありませんが、化学肥料や農薬を使用した「慣行栽培」の野菜が健康に悪いかのようにいうのは問題だと批判の声が上がりました。慣行栽培で使われる化学肥料や農薬は、人が生涯にわたって毎日とり続けても害がない量に設定されているからです。
オーガニック給食導入のもう一つの理由は、「子どもたちに栄養価の高い有機野菜を食べさせてあげたい」というもの。有機栽培と慣行栽培で、野菜の栄養価が大きく違うということは考えられません。それなのに、どうしてそんな主張が生まれたのでしょうか。
それは「現代の野菜は、昔の野菜に比べて栄養価が低下している」という間違った説が広まっているためだと考えられます。
広告にも利用される栄養価の話
「現代の野菜は栄養価が低下している」――この説を私が初めて知ったのは、30年ほど前のこと。当時愛読していたグルメマンガの中に出てきたのですが、まったく根拠はなく間違っています。
では、どうしてそんな説が広まり続けているかというと、公的データである『日本食品標準成分表』の誤った見方が根拠として提示されているから、または野菜ジュースやサプリメントなどを売るための宣伝に使われているから、食育で教えられているからでしょう。
ある大手食品メーカーの野菜飲料の広告には、断定口調で「農薬や化学肥料の影響で野菜の栄養価が乏しくなっている」と書かれています。さらには、1950年と比較して、ホウレンソウの鉄は13mgから2mgに、ニンジンのビタミンAは約80%も低下していると食品成分表の数値を根拠に危機感を煽っているのです。これを見た一般の人が誤解させられてしまうのは仕方のないことだと思います。
これらの野菜の栄養低下説で共通して出てくるのが、1950年というキーワード。どうして野菜の栄養価が下がっている根拠として、常に1950年のデータと比較されることが多いのでしょうか。それは、『日本食品標準成分表』が誕生したのが1950年だからなのです。