一流の仕事は何が違うのか。1万人以上を分析し、「アジアの組織開発コンサルタントトップ10」に選ばれた経営コンサルタントの佐藤美和さんは「コンサルティングの世界では“ミリオンダラーピッチ”という用語がある。結論を端的に1枚にまとめられるまで咀嚼して相手に伝えられれば一流だ」という――。

※本稿は、佐藤美和『世界のハイパフォーマーを30年間見てきてわかった一流が大切にしている仕事の基本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

結論を1枚に凝縮した資料

「この資料、一体何キロあるんだろう?」

図表、根拠となるデータ、使用したデータベース、分析手法の説明、結論に至るまでの検討の過程を詳細に記した分厚い資料は、迫力満点です。資料を受け取った人は、そのインパクトに感動してくれるし、資料を作ったほうも、努力のすべてを披露できたという達成感を得られます。私も駆け出しのコンサルタントだった頃は、クライアントとの定例プロジェクトミーティングには、毎回分厚い資料を提出していました。

ところが、コンサルタントとしての経験を積み重ねるうちに、気づいたことがあります。それは、一流のコンサルタントたちは膨大な資料の内容をA4・1枚にまとめられるということです。

「ミリオンダラーピッチ(Million Dollar Pitch)」というコンサルティング用語があります。お客さまから100万ドル(約1億5000万円)のフィーをいただける1枚の資料を作れるのが優れたコンサルタントだということです。

「資料1枚で100万ドルってどれだけ美味しい仕事なんだ?」と思う人がいるかもしれませんので、誤解のないように言っておくと、資料1枚というのは、手を抜いて構わないということではありません。資料作りなんかに時間をかけるな、ということでもありません。結論を端的に1枚にまとめられるまで、咀嚼そしゃくしてお客さまに伝えるのが一流のコンサルタントだということです。

資料を作成する人
写真=iStock.com/Perawit Boonchu
※写真はイメージです

コンサルタントは、ひとつの結論を出すために非常に多くの時間をかけて分析や検討を行っています。だからそれをそのまま資料にすると、軽く数100ページの分量になります。とはいえ、その分量のものをそのままお客さまに渡すのは怠慢と言わざるを得ません。

資料を紙1枚にまとめると年400時間の残業がゼロに

お客さまは結果に対してお金を支払ってくださるのだということを忘れるな、というのがミリオンダラーピッチが意味するところです。分厚い資料を読んでもらうのは、相当な負担になります。読み手の集中力が続かなくて重要なポイントを見逃す可能性もあるし、最後まで読んでもらえないかもしれません。それを考えると、A4・1枚にまとめられた資料は、読み手にとって大変価値のあるものです。

トヨタでは、業務上の書類はすべてA3またはA4サイズの紙1枚に収めるという習慣が企業全体の文化として根づいているというのは、有名な話です。

報告書、企画書、会議の資料や議事録、打ち合わせ資料、プレゼン資料、スケジュール確認用のリスト、考課面談の記録……。あらゆる種類の書類、そしてどんなに複雑な内容の書類でも、トヨタは原則「紙1枚」です。紙1枚にまとめるようになってから、年400時間を超えていた残業時間は、ほぼゼロになったと言います。

紙1枚にするだけで、どうしてそんな効果が出るのでしょうか?

1枚の紙にまとめるのは、かなり大変なことです。必ず伝えたいこと(幹)だけを残して、周辺情報(枝葉)は切り捨ててしまわなければなりません。だから、1枚に収めるための作業をすることで、内容に対する理解は自然と深まります。お陰でどんな質問をされても即答できるレベルになります。

資料を読む人は、厳選された情報だけが書かれている資料を見ることで、考えることに集中できます。だから、その場で結論を出せるのです。

とはいっても、いきなり資料を1枚だけにしたら、「これだけ?」と言われないか心配です。そんなときは、A4・1枚の「サマリー(要約)」を先頭に、その後ろにこれまで作っていた分厚い資料を「補足資料」として提出しましょう。

「サマリーがあるとわかりやすくていいね」と言われたら、「そうですよね!」と次回から提出はサマリー1枚だけにすることを提案してください。