※本稿は、佐々木俊尚『歩くを楽しむ、自然を味わう フラット登山』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
ヒイヒイいうのだけが登山じゃない
「ヒイヒイ言いながら急な登山道を歩いて、なんとか頂上に到達して達成感を味わう」というような固定観念がある。しかしそういう「ヒイヒイ」が本当に登山の本質なのだろうか。
わたしは登山についてのそうしたステレオタイプや嘲笑や古い常識をすべて取り払ったうえで、心地良く楽しい新しい登山のスタイルを提案している。そのメッセージを短く言えば、こういうことである。
「とにかく気軽に、気持ち良く、楽しく歩きたい。登山なんてそれでも十分じゃないか」
だから必ずしも高い山脈に行く必要はない。山頂に立たなくたってかまわない。歩いて気持ち良い道だったら、平原や森の中にもたくさん存在している。都市の郊外にもある。「そんなものは散歩だろう」とマウンティング気味にバカにする人が出てくるだろうが、そんな定義はどうでもいい、とにかく気持ち良く歩きたいのだ!
わたしは、そのような新しい登山を「フラット登山」と名づけている。
フラット登山には、三つの意味がある。
急登にヒイヒイ言うのだけが登山じゃない。フラット(平坦)な道も歩いて楽しもう。
自然と向き合える楽しい登山の世界にまで、ヒエラルキーを持ち込みたがる人たちがいる。いわく「冬山のほうが偉い」、いわく「日本百名山をたくさん登ってるほうが偉い」。そういう下らないマウンティングから脱却して、みんながフラット(平等)に登山を楽しもう。
登山を難しく考えすぎるのはやめよう。もちろん遭難対策は忘れてはならないが、もっと気軽に週末日帰りでふらっと気軽に登山を楽しもう。
フラット登山の最大の魅力
山を登るにあたって、重要な要素のひとつが「混雑度と官能度の組み合わせ」だ。
混雑度というのは、そのコースにどのぐらいの登山者が予測されるのかということ。官能度は、そのコースの魅力の度合いである。
「登山者の数など山の魅力と関係ないだろ?」という声も聞こえてきそうだが、いやいやとんでもない。わたしたちは気持ち良く歩き、美しい自然に没入するために山に歩きに行っているのであって、混雑して渋滞した登山道で見ず知らずのだれかの背中を見に山に行っているのではない。混雑した山は魅力が半減どころか、十分の一ぐらいに減ってしまう。なるべく人が多くない、できれば周囲三六〇度の自然を独り占めできるぐらいの環境のところに行きたい。それこそがフラット登山の最大の魅力である。異論のある人もいるかもしれないが、わたしはそう言い切ってしまう。登山のオーバーツーリズムなど、まっぴら御免である。