夏の甲子園を目指す地方の高校野球部の主将に女子が就任して話題を呼んでいる。ルールで試合には出場できないが、練習メニューなどは監督に頼らず綿密に組み立て、チームを下支え。練習グラウンドを走り回って声を出す姿を取材したフリーランスライターの清水岳志さんは「チームにはプロ注目の選手もいるが、ベテランの監督も選手も男子全員が野球未経験の彼女に一目置いている」という――。
諏訪清陵の主将は、五味遥花さん(3年生)
撮影=清水岳志
諏訪清陵の主将は、五味遥花さん(中央)

公立の進学校の「夏の甲子園」の戦いぶりに注目集まるワケ

夏の甲子園を目指す地方大会開始が迫ってきた。「負けたら終わり」のトーナメントを勝ち抜くため、各校の練習が熱を帯びている。

そんな中、ファンの間で注目されている高校がある。長野県中央部に位置する諏訪市の諏訪清陵だ。実は今夏の同校主将は、女子が務める。1899(明治32)年の創部以来、女子部員の主将は初めてだ。女子の軟式・硬式野球部ならわかるが、そうではない。高校球史でも珍しいケースだろう。

男子で主将のなり手がない弱小チームというわけではない。同高には現在、プロ球団注目の選手も在籍しており、今春の県の公式戦(夏の地方大会の前哨戦)では地元エリア3位に食い込み、県大会にも進出した(連合チームなどを含め県全体で71校中16校)。

過去に甲子園出場こそないものの、公式戦でしばしば県ベスト8~16に入っている。例年、スポーツに力を入れる強豪私立にもひけをとらず、勝ち上がってくる県立校と評されている。

諏訪清陵の8番、宿岩選手のバッグ
撮影=清水岳志
選手は短い時間で集中して練習する

高校野球は「危険防止」という名目から、グラウンドでプレーできるのは男子選手だけ。女性主将は試合に出場することはできない。にもかかわらず、なぜ女性リーダーだったのか。そして、なぜチームは強いのか。

先日、練習を取材すると、すぐにその理由がわかった。

彼女はグラウンドを走り回っていた。筆者はこれまで数多くの野球部を取材したが、過去イチ走るマネジャーだ。他にも、ボールが入った重いケースを運んだり、白線をひいたり、大きな声で選手に指示を出したり。とにかくじっとせず、せわしなく動き続ける。彼女が「チームの中心にいる」ことは一目瞭然だった。

160cm細身のジャージ姿の主将は、五味遥花さん(3年生)。マネジャーも兼ねるチームの要だ。自身に野球経験はなく、中学まではバレーボール部や陸上部に所属していた。