トランプ政権の関税政策はこれからどうなるのか。伊藤忠総研上席主任研究員・高橋尚太郎さんは「株価や他国の反応には意を介さないトランプ政権だが、金利の動きには敏感だ。これからの関税政策を考えるうえで、金利のほか、支持率、議会の3つに注視する必要がある」という――。
2025年5月25日日曜日、ワシントンD.C.のホワイトハウスでマリーン・ワンを降り、南芝生を横切るドナルド・トランプ大統領
写真提供=Pool/ABACA/共同通信イメージズ
2025年5月25日日曜日、ワシントンD.C.のホワイトハウスでマリーン・ワンを降り、南芝生を横切るドナルド・トランプ大統領

トランプ氏が関税政策のスタンスを軟化

トランプ大統領は、1月20日の大統領就任以来、世界を相手に関税引き上げ策を打ち出していった。ただ、その強硬なスタンスは、4月上旬を境に軟化し始めた印象がある。

まず、4月9日には、中国を除く56カ国・地域に対する相互関税(上乗せ分)の発動を90日間延期した。4月2日に発表したばかりの相互関税であったが、その大部分を翻したことになる。

一方、中国に対しては、中国からの対抗措置もきっかけに関税引き上げ合戦が勃発し、125%もの相互関税を課していた。しかしながら、4月11日には、中国から多く輸入する、パソコンやスマホなどを相互関税の対象外とすることを発表した。

対中関税の影響緩和を狙ったと考えられる。さらに、5月12日には、中国との間で関税合意を暫定的に成立させ、中国に対する相互関税率を一旦125%から10%に引き下げることとなった(5月14日実施)。

トランプ政権の関税政策の修正には、当然ながら、米国の消費者や企業の間で、先行きのインフレへの懸念が広がっていったことが背景にあっただろう。特に、中国からは、米国の小売店などで流通する衣服や家具、おもちゃなどが大量に輸入されている。100%超の関税を課して輸入が急減すれば、そう遠くないうちに品不足に陥る懸念が強まっていた。

ただ、トランプ氏のスタンスの軟化には、インフレへの懸念だけでなく(あるいはインフレ懸念と関係した)、①金利上昇、②支持率低下、③減税を巡る議会動向といった、見逃せない3つの動きが関係していたと筆者は考える。

トランプ氏は、他国の反応は意に介さず、またトランプ関税に対する司法の壁(5月28日に、米国際貿易裁判所がトランプ関税の一部が違法であるとの略式判決)にも抗っていくだろうが、国内情勢は無視できない。

これら3つの動きは、今後のトランプ氏の政策運営や言動にも影響を及ぼし続ける可能性があり、注視が必要である。

政権は金利の動きに敏感

トランプ政権が、4月9日に相互関税(上乗せ分)の発動を延期したことの背景として、金利の急上昇が背景にあったとの指摘が多い。

トランプ氏は、自身が不動産業を手掛けてきたこともあり、金利がビジネス界にとって大きな影響を与えることを認識し、以前から金利低下の必要性を掲げてきた。そのため、自身の政策や言動が金利上昇を招いていると理解すれば、修正をかけることが想像できる。