ライオンズ氏はe-POWERの乗り心地について「運転というより、滑空するような感覚」と表現し、一貫してスムーズに走行できる長所を強調する。エンジンから車輪へ直接力が伝わらない仕組みにより、従来の内燃機関のようにエンジンの回転数上昇を待つタイムラグがない。アクセルを踏み込めば、瞬時に電気モーターが力強く反応する。

高速道路の合流から大きな交差点での右折時まで、シーンを問わず発揮される伸びやかな加速感。高速走行で燃費が伸びにくいなど短所も目立つ反面、こうした独特の走行フィールを愛するオーナーも多い。

ドライブ.com.auによれば、日産はこれまでに世界68の市場で150万台を超えるe-POWER搭載車を販売しており、この実績が技術の信頼性を証明しているという。オーストラリア市場では10年または30万キロメートルの保証を付けるなど、自社技術への確かな自信がうかがえる。

スマホ市場の鈍化、新たな事業の柱を探すホンハイ

こうした独自の強みを持つ日産に対し、ホンハイは2月から公に興味を示してきた。

ホンダとの交渉が本格化した段階でトーンは控えめになったが、ホンダとの破談を経て直近、三菱に加えて詳細不明の1社との提携の報道が浮上。日産との技術提携の可能性が再燃した。

台北タイムズ紙は、スマホ市場の伸び悩みを受けたホンハイが、EV事業を将来の稼ぎ頭として重視していると指摘。長年培った電子機器生産の技術力を武器に、EV事業を急拡大したいねらいだと同紙はみる。

台湾新北市土城にあるフォックスコン・テクノロジー・グループの本社
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ホンハイの戦略はユニークだ。すなわち、自社完結型の自動車メーカーになるのではなく、自動車開発のプラットフォームを完成させ、それを各社に提供する立場を目指している。米EV情報サイトのインサイドEVは、「EV市場におけるAndroidシステム」の座を狙っていると例える。

このプラットフォームは、「MIH(モビリティ・イン・ハーモニー)」と呼ばれるEV用オープン・プラットフォームだ。別の例えをするならば、いわば「iPhone製造受託のEV版」といったビジネスモデルを目指している。

モーター1によるとホンハイは、今年末までに北米でEVモデルCの製造を始める計画だ。このモデルは2021年に初めて発表され、子会社のフォックストロンを通じて台湾など一部地域で販売されている。

ホンハイのEV戦略を指揮する元日産幹部

こうして事業拡大をねらうホンハイにとって、日産は人脈の面でも潜在的なパートナー候補となり得る。ホンハイでEV戦略最高責任者を担うのは、元日産幹部の関潤氏だ。インサイドEVは、関氏が日産で30年以上にわたって実績を積み重ねてきたと振り返る。

関氏はカルロス・ゴーン氏の逮捕後、日産の経営陣に名を連ねたが、内田CEOが就任したのを機に会社を去ることになった。当時58歳だった関氏は、ロイター通信の取材に応じ、「会社のトップに立つ最後のチャンス」だと考えて京都の自動車部品メーカー・ニデックに移ったと語っている。その後、さらにホンハイへと転身した。