「耳に鉛筆を刺したように痛い」症状も

帯状疱疹には、「ラムゼイハント症候群」と呼ばれる超痛そうなバリエーションもある。前横浜市長の林文子氏もかかった病気だ。

「左耳に突然、鉛筆を刺されたような痛さがあった」――林氏は、激痛で約一カ月間入院した後の復帰記者会見で、そう述べている。

主な症状は顔面神経麻痺、耳の帯状疱疹、聴神経症状(めまい、難聴など)。これらの症状は2~3日の間に順次、出現していく。

帯状疱疹の年間発症率は人口10万人当たり300~500人。そのうち4分の1は三叉神経領域、つまり顔に生ずると言われているが、ラムゼイハント症候群になるのは帯状疱疹患者の約1%、10万人あたり年間5人程度しかいない。三叉神経領域の帯状疱疹とラムゼイハント症候群が合併した林氏の例は非常に稀なものではあった。

ただ、ラムゼイハント症候群には、カナダ出身の人気歌手、ジャスティン・ビーバー氏や音楽家の葉加瀬太郎氏も罹患している。年齢、性別に関係なく、誰でもなり得る病気であることは否定できない。

帯状疱疹の受診先は皮膚科だが、ラムゼイハント症候群の場合は耳鼻咽喉科へ。また、頻度は少ないが、眼球が罹患すると角膜潰瘍などを起こして視力低下や失明にいたることもあるので、顔面(眼周囲)に罹患した場合には眼科の受診も必須だ。

加えて、帯状疱疹には、帯状疱疹後神経痛というやっかいな後遺症もある。文字通り、帯状疱疹が治った後に残る神経痛だ。普通、帯状疱疹の痛みは水疱(みずぶくれ)が消えると同時に消失するものだが、一度損傷した神経が修復されるには時間がかかる。

「何がやっかいって、痛みが激しい上に、治療が非常に難しい。普通の痛み止めは効かないので、医療用麻薬を使ったりしますが、それでも十分な鎮痛効果がえられないことも多い。」

帯状疱疹後神経痛になりやすいのは、高齢者、帯状疱疹の症状をこじらせてしまった人、免疫機能が低下する疾患を持っている人など。

生命が危うくなることはないとしても、ほぼ生涯、痛みと縁が切れることはない。

写真=CDC Public Health Image Library (PHIL)
水痘・帯状疱疹ウイルスの電子顕微鏡写真

「生」にすべきか「組換え」にすべきか

2025年4月1日から、帯状疱疹は定期接種(B類疾病)の対象疾患に位置づけられた。

これにより、2025年度に65歳を迎える人や、2025年度に60歳以上64歳以下で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能の障害で日常生活がほとんど不可能な人は(身体障害者手帳1級所持または同程度)一部公費負担で予防接種を受けることができるようになった。

また、すでに65歳を超えている人も定期接種の機会が得られるよう、25~29年度は66歳以上も対象となる。ただし、希望者が殺到してワクチン供給が不安定になるのを避けるため、29年度まで毎年度、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳になる人だけが対象で、101歳以上の人は、25年度に限って対象とし、26年度以降は対象から外れる。