12、13年産米は豊作なのに価格が上昇

JA全農は自身の在庫を増減させ流通量を調整することにより、相対価格を操作することができる。過去には、豊作によって本来価格が下がるはずのときに価格が上昇したこともあった。先物取引にJA農協が反対するのは、価格を操作できなくなるからである。

例えば、2012年、13年産の米価は、コメの作柄が良かったので、下がるはずだったのに、逆に高くなった。

突然消費者がコメをたくさん食べるようになったわけではない。農家から集荷したJA農協が、市場への供給を抑えたので、米価が上がったのだ。しかし、生産が多いのに供給を少なくすれば、JA農協のコメ在庫が増える。いずれこの大量の在庫は放出される。2014年のコメの供給は、同年産のコメの生産量にこの在庫を加えたものなので、同年産の生産は前年より減少したにもかかわらず、同年産米価は下がった。

だから「備蓄米放出」でもコメの値段は下がらない

備蓄米を21万トン放出しても、コメの値段は下がるどころか上昇した。全国のスーパーでのコメの平均価格は17週連続で値上がりし、4月27日5キロあたり税込みで4233円となっている。5月4日までの1週間に販売されたコメの平均価格は18週ぶりに19円値下がりしたが、わずか0.4%の減少である。1年前の2000円程度の水準から倍増である。とうとう石破総理の指示で、農水省は7月まで毎月10万トンずつ備蓄米の放出を行うことを決めた。

スーパーでの販売数量・価格の推移(出所=農林水産省ホームページ

既に21万トン放出したのにコメの値段は逆に上昇している。備蓄米を追加放出してもコメの値段は下がりそうにない。それは、農水省の備蓄米放出に米価を下げないカラクリが巧妙に用意されているからだ。

一つは、消費者に近い卸売業者や大手スーパーではなく、米価を低下させたくないJA農協に備蓄米を売り渡したことである。3月に放出したのに、4月中頃になっても2%しか消費者に届いていない。スーパー等に近い卸売業者ではなく、流通面ではその1段階前のJA農協に放出した以上、時間がかかるのは当然だろう。また、米価は需要と供給で決まる。より根源的な問題として、備蓄米を放出しても、その分JA農協が以前よりも卸売業者への販売を減らせば、市場への供給量は増えない。相対価格が下がらなければ、卸売業者の利益も確保する必要があるので、小売価格も下がらない。その相対価格は備蓄米の放出と関係なくJA農協によって操作される。

もう一つは、1年後に買い戻すという前代未聞の条件を設定したことである。放出して買い戻すのであれば、市場への供給量は増えない。これは、今秋以降1年間のコメの値段に影響する。備蓄米を放出しても、米価を下げないという農水省の意図が隠されている。