農家は本当に弱者なのか

「これまで長年にわたり米価は生産者のコストを賄うものになっていなかったのであり、今回の上昇した米価は高くない」というJA全中会長の意見に、各党の農業関係議員は同調しているようだった。NHKは米価が30年以上も生産費を下回っていてコメ農家は赤字であるというグラフを用意していた。

私の「コメ農家の時給10円説」はウソである…日本人に高いコメを買わせ続ける農水省・JA農協の“裏の顔”」を読んでいただいた方は、この議論がマヤカシであることに気が付かれるだろう。

まず、赤字なのに、なぜ農家はコメ作りを続けてきたのだろうか? 食料の安定供給に使命をもって国民のためにコメ作りを行ってきたのだろうか? それなら、なぜ食料供給に不可欠な農地資源を333万ヘクタールも転用・耕作放棄で潰してきたのだろうか。これは中国地方の総面積を上回る規模の農地破壊である。

理由は簡単である。米価が高いのでマチでコメを買うよりも多少赤字でも自分で作った方が得だからだ。(「JA農協&農水省がいる限り『お米の値段』はどんどん上がる…スーパーにお米が戻っても手放しで喜べないワケ」参照)さらに、この農業の赤字を税務申告して損金算入すると、サラリーマンとして納税した所得税の還付を受けられる。赤字のコメ作りにはいろいろなメリットがある。

生産費も誰のものを見るかで異なる。1ヘクタール未満の零細農家のコストは30ヘクタール以上の農家の3倍もしている。赤字になるのは当然である。これに対して50ヘクタール以上の農家は赤字どころか2000万円近い所得を上げている。戸数では圧倒的に多い零細農家のコストが平均生産費となるが、コメの生産量では圧倒的に多い規模の大きな農家の所得は国民の平均所得の数倍もしている。

【図表】コメ農家の規模別生産費・所得(2020)
図表=筆者作成

日本のコメ生産コストが高い理由

農家には肥料などの価格が上がっているので、25年の米価の上昇は当然だとする主張がある。

しかし、同じ原材料を使っているのに、日本の肥料や農薬はアメリカの2倍もする。JA農協は高い市場占有力(肥料で8割、農薬で6割)を利用して農家に高い資材価格を押し付けている。これが日本農業の高コスト体質を生んでいる。JA全中の会長は、肥料や農薬などの価格を下げてから米価の水準を論じるべきだ。また減反・高米価で零細な兼業農家を温存して主業農家の規模拡大、コストダウンを阻んできたのも、JA農協である。日本の生産コストさらには米価を高くしている最大の原因は、JA農協である。

このJA農協による資材価格の高さを指摘したのが、2015年自民党の農林部会長に就任した小泉進次郎だった。農政トライアングルの抵抗に遭い、JA農協への要請という形にしかならなかったが、日本の農家に国際的に高い農業資材を購入させられていることを認識させるという功績はあった。