「実質」で見えてくるインフレ下の“落とし穴”

2つ目は、運用資産の見直しです。前述のGPIFの運用方法をヒントに説明しましょう。かつてGPIFは国内債券中心の運用を行っていましたが、現在はリスク分散を重視し、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式をそれぞれ25%ずつ保有する「均等分散型」のポートフォリオを基本としています。つまり自己資産も「株式100%」になっていたり、「外国株(特に米国株)」に偏っていたりすると、株価が急落したときに大きな損失を負いかねません。株と債券をバランスよく保有することで、片方の値が下がっても全体への影響を抑えられます。

【図表1】GPIF 基本ポートフォリオ(第5期)
筆者作成

そして3つ目は、生活費や老後資金は「名目」ではなく「実質」で考える習慣を。これはインフレ時代の資産管理において非常に重要な点です。

たとえば、今年の年金が去年より月5000円増えたとします。これが「名目」上の増加です。しかし、ここで注意しなければならないのが「実質」、つまり物価の変化を考慮した“本当の価値”です。もし物価がそれ以上に上がっていたら、5000円増えても、実際に買えるモノは減っているかもしれません。

言いかえれば、「名目が増えても、実質が減っていたら意味がない」ということです。インフレ下ではこの落とし穴に気づかず、「もらえる金額が上がったから大丈夫」と安心してしまうケースも少なくありません。年金だけでなく、給料や貯金、資産運用の成果も「実質」で見る視点を持つことで、将来の生活を守る力がぐっと上がります。

私たちは“静かに奪われている”

これら3つの対策は、「お金が減る」のではなく、「お金の価値が減る」というインフレの本質を理解したうえで、自分の資産と生活を守る基本になります。株価の急落にはニュース速報が流れますが、インフレによるお金の目減りは、誰も大きく騒ぎません。だからこそ対策が遅れ、公的な手立てもすべて後手に回ってしまうのではないでしょうか。

静かに、しかし確実に、私たちの老後を脅かす“インフレという見えない敵”。それに気づき、備えられる人だけが、安心した未来を手にすることができる。物価異常高騰の今年こそ、自分の財布・生活設計・投資方針を見つめ直すタイミングと言えるかもしれません。

(構成=池田純子)
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