金持ちの後継者になった男は、吉原で遊びほうけ、散財する

和泉屋の門まで着いた金兵衛。清三の住まいはまことに豪華なものでした。後継者になってくれそうな若者の出現に清三は大いに喜び、酒を出し「親子主従の祝儀の酒宴」を開きます。金兵衛は家督を継ぎますが、段々と「奢に長じ」、日夜、酒宴を催すようになります。「類は友を以て集る」の言葉通り、金兵衛の周囲には手代の源四郎、太鼓持ちの万八、座頭の五市など良からぬ輩が集まってくるのでした。

金村屋金兵衛ということで、金兵衛は人々から「金々先生」と呼ばれます。金兵衛は前述の悪友に唆されて吉原に行き「かげ野」という女郎と馴染みになりました。遊びで散財していく金兵衛(手代の源四郎は、金兵衛に多く金銀を使わせてその余りをくすねていました)。放蕩三昧の金兵衛に養父の清三は大いに怒り、金兵衛の衣服をはぎ取り、昔の姿にして屋敷を追い出すのでした。

追い出された金兵衛は呆然として途方に暮れますが、粟餅の杵の音に驚き、起き上がって見ればこれまでの事は「一炊いっすいの夢」だったのです。金兵衛は、人間栄華を極めたとしても、それも一時の夢、粟餅一臼の内のごとしと悟り、生まれ故郷に戻ります。これが『金々先生栄花夢』の概要となります。

恋川春町 作・画『金々先生栄花夢』(版元:鱗形屋孫兵衛)、安永4年(1775)
恋川春町 作・画『金々先生栄花夢』(版元:鱗形屋孫兵衛)、安永4年(1775)(国立国会図書館デジタルコレクション