奔放な姿の裏側にある息子への愛
ドラマでは二宮和也が演じた父・清の死後、やなせたかしの弟・千尋は叔父の寛の養子となり、やなせたかしは母と祖母と3人で高知市の借家で暮らしていた。そんななか、登喜子は、日々生け花や茶の湯など様々なお稽古ごとに精を出ていた。
前掲『アンパンマンの遺書』のなかで、やなせたかしは当時をこう語っている。
今から考えると、未亡人になった母は全力をあげて自活の道を探していたのだ。ミシンを踏んで洋服を縫い、茶の湯、生花、盆景、謡曲、琴、三味線と、習い事でほとんど家にいなかった。
「あんぱん」でも、柳瀬家に転がり込んだ登美子が、いきなりお茶をたてはじめ、嵩の叔母・千代子(演・戸田菜穂)と一触即発となるシーンが描かれた。
登美子は千代子に「お茶、お花、お琴。一通りのことは身につけました。それでも、女が一人で生きていくのは大変なんですよ」とさらりと語ったが、その言葉の裏には途方もない努力があったに違いない。
このお茶のシーンは、奔放な登美子を象徴しているように見えて、実は登美子なりに自活の道を探り、嵩と共に生きていく選択肢を模索していた、という嵩への秘めたる愛を示す伏線だったのだ。
登美子は「ばいきんまん」?
嫌われ者で誤解されやすいが、どこか憎めず、素直になれない不器用なキャラクター、というと、どこかで聞き覚えがないだろうか。
ドラマ「あんぱん」では、アニメ「それいけ!アンパンマン」に登場するキャラクターとリンクする登場人物が多数登場している。登美子のモチーフとなっているのは、あの稀代の悪役キャラ「ばいきんまん」なのではないだろうか。
「あんぱん」では、登場人物の衣装の色が、リンクするキャラクターの色と同一となっている。元気ではっきりものを言う主人公・のぶは、ドキンちゃんに由来したオレンジの着物を着用(やなせたかし本人も、ドキンちゃんは妻の暢に似ていることを著作で語っている)。
憂いを秘めた次女・蘭子の青い衣装はロールパンナちゃん、おちゃめな三女・メイコの緑の衣装はメロンパンナちゃんに由来していると、NHKの番組内で明かされている。そして気になる登美子の衣装は、紫色。ばいきんまんカラーである。
もう一つ、ばいきんまんと登美子の興味深い共通点がある。
それは、ばいきんまんと、ばいきんまんを「パパ」と呼び慕うフランケンロボくんとの関係が、嵩と登美子、そしてやなせたかしと登喜子の関係にそっくりなのだ。
ご存じない方のために、まずはフランケンロボくんについて説明したい。