主人公・嵩は「フランケンロボくん」
フランケンロボくんは、ばいきんまんがアンパンマンを倒すために作ったロボットだったが、優しい心を持ち役に立たなかったため捨てられてしまう。
普段は「とうだいまん」の元で仕事をしているが、さみしがりやで、仕事が休みの日には、いつもパパであるばいきんまんに会いにいく。
しかし、カミナリのパワーを帯びていて、触れた相手を感電させてしまうため、大好きなパパからも嫌がられてしまう……という、実に切ないキャラクターだ。
1990年代の比較的初期のころから登場し、フランケンロボくんを主役にしたスピンオフ映画『それいけ!アンパンマン フランケンロボくんのビックリクリスマス』が作られるなど、非常に人気の高いキャラクターだ。
ばいきんまんから捨てられても、決してばいきんまんの悪口を言ったりすることはなく、常に「パパ、大好き!」と向かっていく。そして「パパ、喜ぶかな~」といつもばいきんまんの幸せを願ってあれこれ奮闘する(そのことが度々ばいきんまんを窮地に追い込んでしまうが……)、実にけなげなキャラクターなのだ。
ドラマ「あんぱん」でも、嵩は自分を捨てた登美子を決して憎まず、登美子を責めるのぶに対し「ずっとこの人に会いたかった」と母をかばい、「あの人の喜ぶ顔、見たくて」と高知第一高等学校を受験する奮闘する姿にそっくりだ。
ぼくはちっとも恨んでいなかった
また、やなせたかし自身も、「母」という詩の中で、母についてこう語っている。
母はずいぶん悪口をいわれた人でした
「お化粧が濃く派手好きで
自分の子どもを捨てて再婚した」
ぼくは母の悪口をいわれるのは
じつにいやでした
ぼくはちっとも恨んでいなかったのです
『やなせたかし詩集 てのひらを太陽に』(やなせたかし著/河出文庫より)
実はフランケンロボくんのモチーフとなっているフランケンシュタインも、アンパンマンと非常に深い関係がある。
「あんぱん」でも、銀座で嵩が健太郎と共にフランケンシュタインの映画を見て感動するシーンがあるが、やなせたかしも学生時代、銀座で見たフランケンシュタインの映画に感銘を受けたそうだ。

やなせたかしは、著作『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)の中で『フランケンシュタイン』の著者メアリー・ウォルストンクラフト・シェリーを「恋人」と呼ぶほど思いを募らせ、その肖像画をみるためにロンドンに旅行したエピソードを明かしている。
そして、アンパンマンを描く上で、フランケンシュタインから大きな影響を受けたと語っている。やなせたかしにとって、思い入れの強いフランケンシュタインがモチーフのフランケンロボくん。もしかするとやなせたかし自身、母への思いをこのキャラクターに投影させていたのかもしれない。