「米価を下げたくない」農水省
昨年夏から農水省はウソと訂正を重ねてきた。その裏に一貫しているのは“コメ不足を認めたくない、備蓄米を放出して(も)米価を下げたくない”という態度である。
まず、減反強化と猛暑で23年産米の実供給量が減少していることは、23年秋の等級検査などで農水省は分かっていたはずなのに、「コメは不足していない」と言い張った。昨年夏のコメ不足を、「南海トラフ地震の臨時情報発表で家庭用の備蓄需要が急増したからだ」と農水省は説明した。しかし、それなら家庭への在庫増加で民間在庫量は減少するはずなのに、そうではなかった。また、家庭用で備蓄されたとするコメは、保存の利かない精米なので、その後のコメの購買量は減少して値段は下がるはずなのに、逆に上昇した。
農水省は、大阪府知事からの備蓄米放出要請を拒否し、「スーパーからコメがなくなったのは、卸売業者が在庫を放出しないからだ」として、責任を卸売業者に押し付けた。農水省は「9月になれば新米(24産米)が供給されるので、コメ不足は解消され、米価は低下する」と主張した。だが、逆に価格が上昇すると、今度は「流通段階で誰かが投機目的でコメをため込んでいて流通させていないからだ」と主張した。この量はJA農協の在庫の減少分21万トンだと言った。
しかし、24年産米は生産が18万トン増えているので、卸売業者も含めた民間の在庫が44万トン減少したなら、62万トンが消えているはずである。消えたコメの存在を証明するため、農水省は今年に入りこれまで把握してなかった小規模事業者の在庫調査を行ったが、これら業者は在庫を増やすどころか、逆に前年比で5956トンも減少させていた。“消えたコメ”はなかったのである。
そもそもコメには流通履歴を記録するトレーサビリティ法があるので、コメが消えることはあり得なかった。農水省は、また19万トン在庫が増えているとしたが、生産増加の18万トンに比べ、在庫が1万トン増えたというだけで米価急騰の説明になっていなかった。農水省がウソを重ねてきたのは、備蓄米を放出して米価が下がることを恐れたからだ。
この一連の農水省のウソをそのまま伝えていたマスコミも専門家も失格である。
コメの価格を決めるのはJA農協
「概算金(JA農協が農家に支払う仮払金)」とは、出来秋(収穫時)にJA農協が農家に払う年に一回の価格である。コメについては、生産したものが消費されるまで、1年以上の長い期間がかかるので、農協は出来秋にいったん農家に概算金を仮払いし、あとで清算するという方法を取っている。JA農協の実際の販売価格との違いが生じると差額が清算される。実際の価格が上がると農家に追加払いされるが、下がるとその分を農家から徴収する。
農家から集荷したJA農協(かなりが全農へ再委託される)は、年間を通じて適時卸売業者へコメを販売する。その販売価格を「相対価格」と言う。コメについては、卸売市場のような公的な市場は現在存在しない。世界初の先物市場は大阪堂島のコメ市場だったが、戦時統制経済への移行により廃止された。コメ流通を統制していた食糧管理制度が廃止された後、その復活が度々要請されたが、コメの販売価格を操作したいJA農協の反対により実現していない。
このため、農水省が関与して2023年10月からコメの現物市場「みらい米市場」が開設されたが、利用は極めて低調であり、コメ需給全体を反映した価格形成を行っているとは到底言えない。相対価格は、あくまでJA農協(全農)と特定の卸売業者が個別に値決めした価格であり、青果物の中央卸売市場のように、全ての関係者が参加する市場全体の需給情報を反映したものではない。