年齢を重ねても健康でいるためには、どうすればいいのか。92歳の栄養学者で、女子栄養大学副学長の香川靖雄さんは「朝食を抜いてはいけない。脳にエネルギーが届かず、健康を損なうリスクを高めてしまう。ぜひ朝食に取り入れてほしいおすすめの料理がある」という――。

たかが朝食、されど朝食

みなさんは、毎日朝食を食べてから、1日のスタートをきっているでしょうか。

「飲み過ぎた翌日は食欲がないので……」とか「シャワーや着替え等の身支度を優先してしまう……」といった理由で、朝食をスキップしてしまった経験がある人は少なくないはずです。

農林水産省が2025年3月に発表した「食育に関する意識調査報告書」によると、朝食を「ほとんど食べない人」は全体で8.7%、若い世代に限っていえば20.5%もいたそうです。

たかが「朝食」と思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、されど「朝食」です。朝食にはさまざまなメリットがあり、私は専門の栄養学の観点から、朝食を軽視する傾向に警鐘を鳴らすべく、2007年に『科学が証明する 新・朝食のすすめ』(女子栄養大学出版部)という本を上梓しました。書籍の中では、朝食と子どもたちの成長や学校の成績の関係性についても論じましたが、ここでは大人の健康について絞ってお伝えしたいと思います。

朝食をとると脳が目覚める

今現在、92歳の私は週に二度三度、電車を乗り継いで、片道2時間以上かけて副学長を務めている女子栄養大学に通っていますが、もちろん、毎朝、朝食を食べています。なぜかといえば、朝食は1日のウォーミングアップの役目を担っているからです。

具体的には、朝食を食べることで脳の唯一のエネルギー源であるグルコースを供給することになるわけですが、端的にいえば、朝食をとることで脳が目覚め、「集中力」や「作業能力」を高めることにつながるのです。ですから、もし、私が毎日朝食を食べずに過ごしていたなら、92歳まで大学通いするのは不可能で、もっとはやく引退していたことでしょう。

女子栄養大学副学長の香川靖雄さん
撮影=池口祥司
女子栄養大学副学長の香川靖雄さん

また、朝食には他にも多くのメリットがあります。たとえば、日本のみならず、世界中で問題になっている生活習慣病。WHOは全世界の死者の70%以上が、日本でいうところの「生活習慣病」で亡くなっているというデータを発表しています(WHOは「生活習慣病」ではなく、「非感染性疾患」という表現を使用。厳密な定義は違いますが、置き換えて捉えても差し支えないと考えています)。

これは日本の厚生労働省等が発表している数値と大きな開きはなく、厚労省は、運動、食生活、禁煙、健診・検診の受診の視点から生活習慣病予防を促し、健康寿命の延伸を目指す「スマート・ライフ・プロジェクト」を推進しています。