アニサキスには様々な種類がある

この食中毒の原因になるアニサキスにはいくつか種類がありますが、アニサキス属の「アニサキスシンプレックス」が大部分を占め、残りの多くは「アニサキスペグレフィ」によるものとされています。

アニサキスシンプレックスは、太平洋側の魚介類に多く、内臓から身に移動する個体は10%くらいです。一方のアニサキスペグレフィは日本海側の魚介類に多く、内臓から身に移動する個体は0.1%くらいだとか。

九州など西日本の日本海側では、サバを刺身など生で食べる文化がありますが、これは日本海で漁獲されるサバのアニサキスは内臓から身に移行しづらいと考えられているためです。一方、太平洋側で穫れるサバは、アニサキスが内臓から身に移行しやすいため、刺身で食べる習慣が広まらなかったのでしょう。

なお現在では、卵から養殖したサバが「刺身で食べられるサバ」として売られています。アニサキスに汚染されるリスクが低いため、ほとんど安全だといえるでしょう。

アニサキス
写真=iStock.com/TopMicrobialStock
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日本海側のサバも安全ではない

アニサキスが「食中毒統計」に病因物質として記載されるようになったのは、2013年のこと。それから2016年までは毎年100件を少し超える程度の報告数で推移していましたが、2018年に468件を記録し、それ以降は毎年300〜500件ものアニサキス食中毒が報告されています。急激に増えていますね。

この原因は明らかではありませんが、①アニサキス食中毒が知られるようになったから、②鮮度のよい魚介類を冷凍せず生で提供するようになったから、③今まで安全だと考えられてきた日本海側で漁獲されたサバにアニサキスシンプレックスが増加したから、などの要素が関係していると考えられます。

2019〜2021年に行われた調査によると、日本海で漁獲されたサバのアニサキスシンプレックス陽性率は70%程度。太平洋側で漁獲されたサバのアニサキスシンプレックス陽性率が90%以上であったのに比べれば低いものの、かなりの割合のサバが内臓から身に移行しやすいアニサキスシンプレックスに寄生されていることが明らかになりました。

原因としては近年の海水温上昇、それに伴うサバの回遊パターンの変化によりアニサキスの寄生状況にも変化が生じた可能性があると考えられています。日本海産のサバだから刺身で食べられるという認識はあらためたほうがよいでしょう。なお、アニサキスは酸では死にません。加工品のしめ鯖は、しっかり冷凍してアニサキスを殺してから酢じめしています。