保守ブルーカラーvs.リベラルエリートの構図

政権が大学を攻撃する最大の目的は、リベラル教育の解体だ。大学とはそもそも科学に立脚した場所。全米だけでなく世界中からの優秀な生徒を集め、多様な人種、文化を礎にイノベーションを生み出す。そのため、現政権が人間活動によって引き起こされる気候変動を虚偽とし、多様性政策の廃止を主張する姿勢とは、真っ向から対立する。

またトランプ支持の岩盤層である白人ブルーカラー保守は、リベラルな大卒エリートに強い反感を持っている。「知識階級がアメリカを蝕んでいる」「大学は伝統的なアメリカ的価値観(キリスト教国家、家族の価値、白人中心主義)を傷つける存在」とも考えている。

トランプ政権は伝統的なアメリカを取り戻すために、リベラルな大学に文化戦争を仕掛けている。その戦いに勝つために教育の自由、つまり将来のアメリカの産業を犠牲にしようとしていると言ってもいい。

ちなみにトランプ支持の保守層が最も共感・賛同する政策は、移民の強制送還だ。政権はこの移民政策と大学への攻撃を、実に巧みに組み合わせている。

無実の日本人学生もビザを剥奪された

「日本人の学生がビザを剥奪された」

このニュースは私たち在米日本人には大きなショックだった。

ユタ州の名門ブリガム・ヤング大学に留学中だった恩田すぐるさんの学生ビザが、前触れもなく突然無効になったのだ。

学生のビザや永住権(グリーンカード)が突然剥奪されるニュースは、もう珍しくない。例えばコロンビア大学の大学院を卒業したばかりのマフムード・カリルさんは永住権を剥奪され、不法移民として拘束され収容所に送られた。その理由はキャンパス内で親パレスチナの抗議活動をしたから。パレスチナ人である彼は、母国を守りたい一心でイスラエルの攻撃に反対しただけだが、それが反ユダヤ主義とみなされた。同じように親パレスチナ運動に参加した学生の多くが、学生ビザを剥奪されている。

「パレスチナに自由を」のプラカードを掲げてデモをする人々
写真=iStock.com/DnHolm
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ところが恩田さんは違う。彼は過去に仲間と釣りに行った際、所持している釣り免許の許容範囲以上の魚を持ち帰ってしまい告発されたが、のちに容疑は取り下げられた。つまり罪にも問われていないのにビザを剥奪されたことが、多くの留学生にショックを与えた。

恩田さんはすぐに訴訟を起こし、ビザは回復した。しかし彼以外にも、ハーバード大など超一流校を含む大学で約1500人の学生ビザが無効にされたとみられている(これが大きく報道されると、政権は全員のビザ回復を発表した)。

さらに問題は、今回影響を受けた者の多くが、中国人やインド人などの白人以外の留学生だったことだ。