手取りはそこまでは増えない
また公的年金には税金や社会保険料もかかります。税金も社会保険料も年金額によって決まりますから、繰り下げによって年金額が多くなると、それらの負担が重くなります。
そのため、年金額が5年の繰り下げで42%増えても、手取りベースではそこまでは増えないのです。
また繰り下げた分を取り戻すまでに約12年かかると前述しましたが、手取りベースではさらに数年を要することになります。
公的年金には「公的年金等控除」があり、年金収入から65歳未満は最低でも60万円、65歳以上では同110万円が引かれ、所得税や住民税が計算されますが、繰り下げている期間はこの控除が活用できないのも、もったいない話です。
さらに医療費や公的介護保険サービスの利用料は所得に応じて自己負担の割合が1~3割となり、年金収入が増えると自己負担割合が2~3割に増える可能性があります。「額面」だけでなく「手取り」、また医療費などへの影響を考えることが重要です。
5年分約200万円が受け取り損になるケース
年下の妻(夫)がいる方が年金を繰り下げるには、前述の「加給年金」にも注意が必要です。加給年金は「夫(妻)が厚生年金を受け取る際」に支給されるため、夫(妻)が厚生年金の受給を繰り下げている間は加給年金も支給されません。
5歳年下の妻(夫)がいた場合、夫(妻)が65歳から厚生年金を受給すれば65歳から69歳まで加給年金が支給されますが、夫(妻)が厚生年金を5年繰り下げると、その時点で妻は65歳となって支給の条件から外れ、加給年金は支給されないのです。
このケースでは5年分で約200万円を受け取り損ねることになります。
繰り下げは、基礎年金部分だけの繰り下げ、厚生年金部分だけの繰り下げも選択できますから、加給年金の受給を優先するなら、基礎年金部分だけを繰り下げ、厚生年金部分は65歳から受け取るのも手です。
繰り上げ受給のメリット
繰り下げのお得度が強調される半面、繰り上げは避けるべきといわれることがほとんどです。でも、本当に不利なのでしょうか。私は必ずしもそうは思いません。
年金受給を1年繰り上げると4.8%、5年で24%、支給額が減額されます。60歳から受け取ると、本来の年金額の76%の水準となり、これが生涯続くため、長生きすると繰り上げたことを後悔し続ける、などといわれています。
年金は長生きリスクに備える保険でもあり、その意味では、たしかに額を減らすのはよくないようにも思えます。しかしメリットもあります。
繰り上げのメリットは、いうまでもなく早く受給できることです。そもそも、繰り下げをするには、繰り下げている間、年金を受け取らなくても生活できるお金が必要です。70歳まで繰り下げるなら70歳まで働く、などです。
対して60歳でリタイアしたい人なら、60歳から年金を受け取って生活費に充てることも可能です。